グラーフの御披露目間近

出来たてのフォルテピアノ(グラーフ)、最初に試させていただく機会でした。

Jan van der Sangen ヤン・ファン・デア・サンゲンさんの5年越しの作品。なんと生っぽい音。調理されていない生肉(?)と比べるのも変ですが、材料の木材が形となり、職人の手によって楽器となり、鍵盤となり、弦が張られ、音楽が奏でられる。弾き手とともに楽器が精製され、成長し、職人がさらに調整する。そのまだ生肉が焼けていないレアな段階に入る感じ。味付けも飾り付けもこれからです。

良いものを作ろうと目指していくこの過程に携わらせてもらっているんだ、と楽器を弾く姿勢に気が引き締まります。数年後に鳴る楽器を見据えて、良いエネルギーをたくさん受けて成長していってほしい。あと2週間では楽器にしてはまだまだ出来たてですが、お披露目ではこの楽器の持つ大きな潜在性を感じていただけるのではと思います。

まだ外塗装もされていない天然木の感触が音色にも現れます。
ハンマーの打弦部分にある、新品の鹿皮がこれからどんどん凝縮されて音色も日々変わっていくことでしょう。

6月19日のお披露目コンサートでは、ヤンさんが以前に制作したベームとともに2台フォルテピアノという超贅沢なコンサートを、素晴らしいピアニスト、アルテム・ベロギュロフ Artem Belogurov さんと演奏させていただきます。とっても楽しみです!

音色はこちらのインスタグラムにアップしました!https://www.instagram.com/kaoru.iwamura.1/

桜の季節

オランダも先週から桜があちこちで見られます。3月21日はオランダで「春」が始まる日です。

アムステルダム、西公園

暖かく過ごしやすい季節です。

これで毎日の戦争が終わってくれたら、もっと嬉しい。自然災害も最近多いけれど、戦争は止めることができるのだから。

東からの電車

アムステルダムに行く電車の中、到着する頃にアナウンスがあった。「ウクライナからのご乗客は、到着ホームでさらにインフォメーションを訪ねて下さい」

毎日の悲しい、胸が張り裂けるような戦争のニュースがストレートに刺さってきた。電車はベルリン出発のドイツの電車である。ということは、ウクライナからポーランドに逃れてきた人たちが、ベルリンまで来て、そこからこの列車に乗った。ヨーロッパは地続きだから、本当に近くだ。私の住む町でも1000人単位での、避難民の受け入れが始まっている。

「避難民」という言葉自体が、差別的に感じる。皆2週間前には普通に学校に行き、仕事をして平和な毎日を送っていただけなのに。ラジオでは大切なヴァイオリンを手放して逃げてきた音楽家の話もあった。家にあったとっても大切なもの、積み上げてきたレンガの一つ一つに込められた、歴史と文化と愛情の全てが壊されること、一番弱い立場の妊婦さんや病気の人への攻撃、この経験のトラウマは計り知れない。

小さい頃、ロシアでビジネスをしていた叔父の関係で、マトリョーシカや、ロシアの小物に愛着があった。音楽だってアートや文学、スポーツだって素晴らしいロシアの文化と人達。誇り溢れるものと、お互いの尊厳と、お願いだからこれ以上破壊するのをやめてほしい、と毎日、一刻も早くこの戦争が終わることを願っている。平和なアムステルダムの西公園にて。

@ Westerpark, Amsterdam

マギーポディウム in Mozarthof

「かおるのマギーポディウム」(家族、子供向けフォルテピアノコンサート)をモーツァルトホーフという学校で、モーツァルトの誕生日の1月27日に演奏してきました!

モーツァルトホーフはスペシャル教育(speciale onderwijs)が行われる、日本でいう特別支援学校に当たります。ここに通うすべての子供達が、ダウン症や、何らかの障害を持ち、学びが困難な子供たちが一般学校よりもゆっくりと、それぞれの子供の能力に合わせた教育を受けています。

このコンサートはお話やシアター的要素もあり、ただ聴いてもらうコンサートと違い、一緒に参加して楽しい時間を過ごしてもらうための企画です。

私の主戦力、シュタインモデルのフォルテピアノを車に積んで、いざ目的地へと向かいます。

この体育館、さあみてください。

舞台の先生、音楽の先生のご協力で黒いカーテンで外光を遮り、舞台照明とカラフルな照明で、雰囲気がガラッと変身しました!

さて、いよいよ第一グループが入場してきました。

中に入った途端に「わー!」「ワオ!」

外見にはどんな障害を持っているかわからない子も多かったです。音に敏感だということで、遮音用のヘッドフォンをつけている子がどのグループにもいました。

最初は緊張感がありましたが、始まってくると皆熱心に聴き入ってくれました。子供たちの反応の素晴らしいこと!!!

ダウン症の子供たちは音楽にとても敏感なようですね。

マギーポディウムは45分のプログラムが標準で内容盛りだくさんなのですが、事前に学校の音楽と舞台の先生と打ち合わせ、子供たちのレベルと年齢に合わせて200名ほどの全校児童を7グループに分けてくださいました。

プログラムも20分、30分、45分と3種類用意し、その場でさらに柔軟に対応できるよう工夫を凝らして準備しました。

コンサートの中で、「よかったらここは音楽に合わせて踊ってもいいよ!」というと、本当に「えー、いいの?」と言ってすぐに踊り始める子がたくさんいました。今までの経験ではなかなかないことでした。

これまでやってきたマギーポディウムで「踊ってもいいよ!」というとシーン、、と恥ずかしがる場合が多いのです。

でもここでは本当に楽しく踊りだすのです。こちらも嬉しくなり、思いっきり踊ってね!!と内心思いながら伴奏に気持ちが切り替わります。

7回の公演の中で、たくさんのことが印象に残っています。

その中で例えば、ベートーヴェンの「月光」の1楽章をダンパー+モデラートペダル(音色が変わる)をオンにして演奏するのですが、曲が終わると通常拍手があったり、言葉を発したり、体を動かしたりの反応がありました。

あるグループの時、その中にはダウン症の子供が多かったのですが、最後の音が消えていくまで、私もずーっと聞き続け、普段以上に長い最後の音、消えた後の余韻を聴き続けました。もう音は終わっている。。。それなのになんと長いこと誰も何も、物音を発しないのです。大抵は雰囲気で自分が音を止める瞬間を決めます。でもこの回では、演奏中からただならぬ深い静けさを感じ、終わってからも長い沈黙。

そうなんです、信じがたいくらい皆が音色を聴き入ってくれて、感じ入り、内面に反応しているのでしょうか。誰もそれを止めないし、自由に反芻しているのです。いうなれば、彼らの感受性にはコントロールというバリアが少ないのです。感じたら、そのまま、感じるまま。まるで無重力でどこまでも続く時間のようでした。

それぞれの子供が違う表現方法を持ち、彼らの外側にいる私たちに伝達されます。

私はこの時の、感じ続けてくれている沈黙の瞬間を一生忘れないことでしょう。涙が出そうなくらい胸がいっぱいになりましたが、次の動作へと自分が移りました。

マギーポディウムの中で、モーツァルトからのお手紙を読んでもらうときがあります。あらかじめ先生と打ち合わせて、このグループは「読む」ことが難しい、とかこのクラスは年齢15から20歳ぐらいまでで読める子も何人かいる、と確認してからスタートしました。子供が読まない時は、先生が読み、そしてほとんどの回で、専門の手話の先生が来て、お手紙の内容を同時に示してくださいました。本当に先生方の熱心なご協力には感謝です。

ある回の時、手を上げてお手紙を読みたいという子がおり、その子はフォルテピアノを触ってみたい、という時も手を上げて熱心だったので、読んでもらうことにしました。でも読むのは難しかったらしく、一つ一つ単語を読むのに、とても時間をかけて、手紙を読み終わるのに数分かかりました。みんなじっと静かに待ちました。その我慢強さにまた感銘を受けました。

読み終わった時、クラスの子供達が「よくやった!」と拍手で讃えました。

常に互いにリスペクトしあい、頑張っているクラスメートの努力をサポートしていました。その子も皆の前で緊張しながらも、頑張ったことを誇りに思ったことでしょう。

手紙を読んでくれた子供の年齢は後で聞くと、14歳でした。体は自分の8歳の娘と変わらないくらいの身長で、読むスピードは5歳ぐらいの年齢というところでしょうか。でもこのように障害がない子供の標準と比較することは無意味なことです。彼女の努力と好奇心、鋭い感受性が居心地の良いこの空間で保護され、安全にゆっくりと成長しているのです。

魂の触れ合いのようなものを、この学校空間ではとても感じました。

ストレートに感受性がぶつかり合い、「楽しい」という気持ちをお互いに交換しました。

印象に残った出来事が多すぎて、圧倒され、消化するのに時間がかかりました。

またの機会に書きたいと思います!

オランダでお節

2022年、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

寅年、気持ちを新たに、ブログにオランダ生活について、時々、お伝えしていこうと思います。

今年の冬は小中学校がちょうど、冬休みに入るという一週間前にロックダウンの発表があり、小学校は一週間予定よりも早く休みとなりました。

ロックダウンで家人が多いのに慣れてはきたものの、やはり子供が家にいたら、仕事しにくくなります。子供達を全く構わないわけには行かず、放っておいて何時間もテレビやゲームに夢中になられても困りますよね。

お友達と遊ぶ約束を入れたり、努力はしますがやはり家で過ごす時間が増え、子供も大人も運動不足が増すばかり。

オリーボレン

さて、オランダで過ごす大晦日は、恒例のオリーボレン(オリーボルの複数形。揚げたボール型ドーナツ)と発泡酒、おつまみでもあれば十分なので、準備は気楽です。さらに今年はご近所さんが招待してくださったので、うちはそれらを持参しました。

オランダはクリスマスを家族と過ごし、大晦日は友人や近所の人と過ごすことが多いようです。このパーティの多い時期も、大人3人まで(家族の子供は数えない)の訪問が許されていたので、集まるとしても少人数でした。

昨年からは恒例の花火も禁止となり、小さい花火しか買えなくなり、年明けの瞬間もずいぶん静かになりました。

うちは主人が4人兄弟なので、それぞれのパートナーや子供たち、義父母も集まると大家族です。ところが義父母はオミクロンも怖いし、集まるのはやめようということに。

もう2年以上、大家族では集まっていません。

やはり寂しいものですね。

さて、表題のおせちですが、大したことは書けないので、昆布巻きに初挑戦したお話を。

昆布は、何もおかずがない、と思っても乾燥昆布を戻してジャガイモ(オランダなので、これはよく家に常備)と和風に煮ただけでも美味しいので、日本に育っていない子供たちも、うちでは大好きになっています。

昆布巻きには、かんぴょうというものが普通は必要で、さらに中にはニシンとか鮭とか入れますよね。私の育った茨城の環境では、ニシンで、昆布を分厚く巻いたものでした。

お節のために日本食店まで行くのは、相当の労力(?)がいるので、スーパーで買える、サバの燻製を使いました。昆布を巻く、かんぴょうがないので、串刺し。笑

それでも、2、3に輪切りにしたら、立派な昆布巻きに見えましたよ!昆布が薄かったですが、サバの燻製も脂がのっていて、こってりと美味しくできました。もう一つの初挑戦は、黒豆作り。中華で買った唯一の黒いお豆なので、立派なものではないのですが、それらしい味になり、感動いたしました! 黒豆作りに三日もかかると思っていなかったので、お節を食べるのが1月2日に。

😅

それだけでは重箱がいっぱいにならず、厚焼き卵を焼いてみたり、ローストビーフにクリームチーズのようなものを挟んだオードブル、カニカマを詰めたりなどして隙間を減らし、、日本酒で乾杯すると、やはり日本人にとっては大切な節目だなあ、と心が満たされます。

煮物、酢の物のハスは、中華屋さんの冷凍ですが、これはとても重宝しています。

さつまいもに、甘みをつけて茶巾絞りも。あとはタラを焼いてみました。

前に結婚祝いにお友達に頂いた重箱、、、小さめですが立派な塗りの3段重ねを、初めて使用するという、、、(!)10年前に頂いて大切にしまっていました。とうとう日の目を見て、ありがたく使わせてもらいました。四角の箱に入れると、なぜか身が引き締まります。豪勢ではないですが、それらしくなりました。

お餅もなかったのですけれど、まさに、重箱の隅もつついてみて、いただきました。

‘ Thin Air’

このタイトルから皆さんは何を思い浮かべますか?『薄い空気』?これは、2020年にカリオペ• ツパキ Calliope Tsoupakiさんというギリシア出身の女性作曲家が作曲した作品の名前です。コロナ禍中に、‘Festivals for compassion’ ( 共感するフェスティバル)と題し、Wonderfeel festival ワンダーフィールフェスティバルというオランダの野外音楽祭が、世界にまたがるオンラインの音楽リレーを企画しました。

https://festivalsforcompassion.com/info/

もっと元をたどると、オランダ人芸術家、Rini Hurkmansさんの「共感の旗」という作品からインスピレーションを得て、音楽の形にしていったのが先のフェスティバルだそうです。

Flag of Compassison by Rini Hurkmans

この旗を掲げて航行する船があったり、飾っているギャラリーがあったりします。共感する、意思表示ですね。

このアイデアを聞いた時に、素晴らしい!と思い、オンラインで世界の様々な場所で、この ‘Thin Air’という同じ作品を 思いを寄せて演奏する姿を「共感するフェスティバル」のサイトで見た時、自分も是非参加したい!と思いました。

そして、11月に演奏させていただいたエラート・フェスティバルで希望を伝えたところ、録画が実現し、現在先のサイトのタイムラインに自分も参加させていただいています。

ユーチューブではこちら。

’Thin Air ‘ by Calliope Tsoupaki

‘ Thin Air’ = 薄い空気

とすると、なんだかコロナの病で呼吸困難になって、酸素が足りないことも関係あるのかな?!と思えたりもして。邦訳、これというのが思いつかないまま、英語にしています。

でもこの言葉を探すと、なんとシェークスピアの詩の一節にある言葉でもありました。この11月のフェスティバルのプログラムでは、ベートーヴェンの『テンペスト』も一緒に演奏したので、シェークスピアからインスピレーションを得たと言われているこの曲とつながりが!?!

偶然だと思うのですが、びっくりしました。

Prospero’s speech. (from ‘Tempest’(written 1610/1611) William Shakespeare )

           Our revels now are ended: These our actors—,
           As I foretold you—, were all spirits and
           Are melted into air, into thin air;
           And, like the baseless fabric of this vision,
           The cloud-capp’d towers, the gorgeous palaces,
           The solemn temples, the great globe itself,
           Yea, all which it inherit, shall dissolve
           And, like this insubstantial pageant faded,
           Leave not a rack behind: we are such stuff
           As dreams are made on, and our little life
           Is rounded with a sleep. — The Tempest, Act 4, Scene 1

ちょっと難しすぎて(汗)、うまく説明できませんが、「精霊たちが空気に、薄い空気に溶けていく」と述べています。

『テンペスト』も、海の上のいかだに乗ったプロスペロと娘のミランダ、島に漂着して、生き延びて、そして魔法で嵐を起こしてリベンジ。。。 イメージ広がるお話です。

今回のこの ‘ Thin Air’ では自分なりの様々なイメージを膨らませて演奏しました。

オリエンタルなメロディーが聞こえてくるところは、世界中に空気を伝って東から西方へ音楽が広がっていく場面、(コロナも空気を介して伝わる 汗)エオリアンハープに触れる風、

精霊たちの天上の叫び、悲しみとともに吹く、墓場の優しい風。

最後、出だしより半音上で曲が終わるのが、何よりも温かく、そしてポジティブな前途を感じさせてくれる、と思いました。

生と死を身近に感じ、共感と、人との連帯、つながりをとても意識したコロナ時代。

この作品は声楽、ソロ楽器、どんな楽器編成でも演奏でき、誰でもダウンロードできます。

私が使ったのは、ギター、ハープ、ピアノ用楽譜。フォルテピアノは少しギターやハープに近い音色を持つと思います。是非機会があったら、演奏してみてくださいね。

こちら→ https://festivalsforcompassion.com/download/

’Life is a Dream’ 『人生は夢』続編

前回のブログでは、今年撮影した映画についてざっくりとお知らせいたしました。もっと撮影秘話に興味持ってくださる方、こちらも読んでみてください!

このタイトル『人生は夢』ですが、

これは映画の中でラストに使われているハイドンのドイツ語の歌曲 ‘Das Leben ist ein Traum’ の邦訳です。人生は泡のように儚く、いずれ消えてしまうもの。

解釈の難しい歌詞です。地上に浮遊するからっぽの泡。愛も戯れもいつか消えてしまう。名声を成しても最後に残るのは、墓標の名前のみー

この映画の中では、2箇所ドローンによる撮影がされています。

まさにこの曲の部分(約20’30)、そしてお話が終わってお城を引いていって撮影するところです。素人の私には出来上がりを見てすごい!の一言なのですが、よく見ていただくと、エドモンド君がちょうどこの歌詞を歌っています。(英語訳が選択できます)

「我々はこの世界に入り込み、漂う」 (We slip into the world and float)

そうです、歌手も橋の上で地面から離れ、水の上を漂うカメラは、子役の子供の目線、 夢の一部のようなシーンなのです。

photo: Chiel Meinema

この日、ちょうど風が吹いていました。風に揺れる木や草は、音楽とともに揺れているかのようで良いタイミングだったのですが、そうするとドローンカメラも、風でぐらついてしまうため、とても苦労していました。

この映画で使われた音楽は、演奏したフォルテピアノ(今回は形が四角のタイプで、特にスクエアピアノと呼ばれます)の時代と場所、1829年イギリス、をヒントに選曲されています。イギリスに行き来したメンデルスゾーン(フェリックスとファニー)とハイドン、このようなピアノを実際に弾いていた作曲家達です。

歌手のエドモンド君とキティちゃんの意見も伺いつつ、歌曲5曲、ピアノソロ3曲を演奏しました。

音楽プログラム

ピアノソロ

メンデルスゾーン作曲『無言歌』より Songs without Words

  • OP. 19 – 2 『後悔』(Regrets)
  • OP. 19 – 3 『狩りの歌』(Hunting Song)
  • OP. 19 – 6 『ヴェネツィアのゴンドラの唄』(Venetian Gondellied)

歌曲

  • メンデルスゾーン作曲 『ズライカ』Suleika
  • ハイドン作曲 『共感』Sympathy
  • メンデルスゾーン作曲 『ズライカとハーテム』Suleika und Hatem
  • ハイドン作曲 『見て!あなたがそれを見るでしょう』Guarda qui che lo vedrai
  • ハイドン作曲 『人生は夢だ』Das Leben ist ein Traum

(ピアノソロのタイトルは『ゴンドラの唄』以外は、後の人がつけた通称)


「音楽ビデオ」というのがメインの目的なので、監督のダーン・フレーは常に、’ Music first!’ ということを念頭にしていました。常に、ここどうする? → 熟考 → 結論 というプロセスの繰り返しです。子供がお城の中で見つからないように逃げて、隠れるシーンがあります。それを探そうとする、キティ。

photo: Minus Huynh

例えばここで彼女の階段を歩く足音を入れるかどうか。足音が音楽にかぶさるとどうなるか、音量が小さければ気にならないか、どの音楽をここに使うか。このシーンの撮影中は、足音を別のマイクで追ったわけではなく、カメラの中で入ってくる音のみです。足音を使用する場合は、もう一度録音するか、作るか、そういう音源を探すか。

ストーリーが流れるよう、音楽が流れるよう、常に熟考していました。

音楽と撮影環境という材料のみからインスピレーションを得てストーリーを展開し、フィクション映画を作りあげたのです。

イギリス、ドイツのロマンティックな歌詞に溢れる言葉の数々は、西風に託した恋人への想いや水のきらめき、戯れ、など自然描写も豊かです。イタリア語のデュエットではキューピッドが二人を結びつけるシンボルです。それらを映像化に試みる、とっても斬新的な映画なのではないかと思います。

‘ Nature or Culture ‘ 自然 か文化か、とよくフレー氏は言っています。

自然、とは元々そこにあったもの。

文化、とは後から人が造り上げたもの。

結果的には自然との一体感ある作品になっているのではないでしょうか。

この女の子役で出演しているのは、実は娘です。

photo: Kaoru
photo: Minus Huynh

馬の玩具で遊ぶのが大好きで、それはいつもの自然体のままです。それでも映画となると初めての経験で、大きなカメラが回る中、様々な要求に応え、よく頑張りました。主人は以前の映画 ‘ Aangenomen’ (adopted: 2012) で息子を子役として起用したので、今回は平等に娘にもチャンスを与えたというのもありますが、子供の目線、というものからインスピレーションをたくさん得ているのは確かです。

「この映画の全てを理解する必要はない」と監督のフレー氏は話します。

なぜ?と思う箇所もあるかもしれません。

なぜカンフー!?

と思われたかもしれません!

このカンフーをするヒーローがお姫様を助けてくれるかもしれない、、

photo: Minus Huynh

エドモンド君はカンフーでたくさんの賞を取っており、プロ並みの腕だそう。歌えてカンフーができて、演技力もある歌手。オペラもたくさん勉強したいそう。将来の活躍を期待しています!

長くなってしまいました!

ここで、本当に秘話だと思うのが、1年前には何もなかったのです。

コロナ禍になり、自宅でオンライン授業を受ける子どもたちや授業をする夫、その世話係になってしまった自分に落ち込みました。そこで、5分間のライブコンサートを思いつきました。その会場がこのお城でした。そのライブを見てくれた方は、何万もいません!100人ぐらいの視聴者の中に、香港のKarenがいてくれて、その映像と雰囲気が素敵、ということで今回の依頼をいただきました。そこからどんどんアイデアが発展していき、カレンも音楽祭で今年5本の映画をプロデュースしました。自分のできることを一つ一つ一生懸命やることが、大切なんだ、と改めて感じた出来事です。

美しい自然、お城、音楽、ロマンティックな恋、空に昇っていく目線。

全ては一つの夢。

香港古楽音楽祭のKaren Yeung、この夢の作品を作らせてくれて、ありがとう!

最後に、スタッフの紹介を。

2日間の撮影中に来てくれた写真家のMinus Huynh氏は、撮影現場の写真を撮ったり、私達のポートレートを撮りに来てくださいました。

現場の写真を綺麗に撮ってくださったおかげで、このブログも華やかになりました。ポートレートは、映画の最後の部分に使われていますがレンブラントの光と影を出すような奥行きのある写真を撮る方です。https://www.minus-huynh.com/index.html

完璧な光の差し具合を調整するのに、準備が入念でした。

編集の Elmer Leupen氏は素晴らしい経験と才能で、撮影したフィルム材料を使いこなし、美しい仕上がりへと導いてくれた映像の魔術師です!www.elmerleupen.nl

数々の素晴らしい録音を残されている録音技師のFrans de Rond氏、バッハ協会管弦楽団専属を始め、各種コンサートホール、コンクール等で幅広く活躍される調律師のEduard Bos氏、経験豊富なカメラマンで、以前スェーリンクコレクションでもお世話になったDeen van der Zaken氏、映画監督であり、カメラマンでもあるAndré Kloer氏、ピアノを提供してくださったGeelvinck Fortepiano Collection、ユトレヒト州Loenersloot お城のボランティアのチーム、美味しいランチを作ってくれた Aly’s Biologische catering、

皆さんにお世話になりました。今回は私はピアニストの役をもらった女優でした!

たくさんの方に見ていただけたら嬉しいです。

’Life is a Dream’ 『人生は夢』

‘ Life is a Dream’ (music film) 『人生は夢のよう』(音楽動画)

こんにちは。このブログを訪ねてくださってありがとうございます。

今回特に強調します。だって3年間もサボっていたのですから。

それでもご縁あり、ここを訪ねてきてくださったことに感謝します。私はおかげさまで今も元気にフォルテピアノを弾いています。

そしてこのパンデミック中にも、今年(2021年)は一つ音楽映画を作り上げました。このプロジェクトは第2回香港古楽音楽祭による打診で、オランダの雰囲気の伝わるお城で、スクエアピアノを使った音楽動画を作成してほしい、というものでした。最初のアイデアは、コンサートの録音。ライブでの音楽祭が難しくなりましたものね。

お城内での撮影現場 (写真:Minus Huynh)

主人が映画監督とシナリオ書きの経験があったことを覚えていてくれた、香港映画祭のダイレクター Karen Yeung さんが、撮影に関して、チーム作りと内容について夫のDaan Vreeに任せてくれました。

主人はクラシック音楽の世界には無縁ですが、子供の頃から常にクラシック(特にチェロの音楽)を聴いて育ち、普段の専門大学教師の仕事の合間に、この数年、幾つかの短編映画を撮影しています!

https://vimeo.com/268741859(例えばこちら Hangul Blues『ハングル・ブルース』)

今回、香港の映画祭ということで、香港出身の二人の若い歌手(Edmond Chu, Kitty Lai) と一緒に作ることに。デン・ハーグ音楽院にて勉強中の二人、香港のカレン、主人と私の最初のミーティングは、Zoomでした。少し緊張が漂う中、主人が何かストーリー性のあるものにしたいと提案しました。

出来上がった映画は、とてもユニークなものになりました!

  • フォルテピアノと音楽の良さを感じてもらいたい
  • セリフは少なく、歌の歌詞がストーリーの一部
  • お城の内外を魅せる
  • 周囲の自然の美しさ
  • 子供の目線から描かれている
  • 夢か現実か、、、ファンタジーと隣り合わせ
  • ドイツ語や英語の歌詞を広東語と英語字幕に訳す

撮影期間は経ったの二日間!!

音楽の録画は1日目の2時ぐらいまでに終わらせる、というハードスケジュールの中、タイムスケジュールは分刻みで組まれました。(スケジュール作成に費やす時間のなんと膨大な事)

主人の映画作りの周辺を何度か垣間見ていたので、いかに一つの映画作成が大変かは身に沁みています。大勢のスタッフや機材も必要です。

狂いやすいフォルテピアノのためにスタンバイしてくれるベテラン調律師さん。カメラマン、ライト、録音技師、写真家、タイムキーパー件雑用係 など、一人二役も三役こなすこともありました。

夫はストーリー、シナリオ作成、監督の他、プロダクションに関わる全ての仕事をこなし、大変ではあったけれど、信頼できるスタッフに快く協力してもらうことができ、それをチームにまとめていった力はすごいなあと尊敬します。

(写真:Minus Huynh)

お城のボランティアの方達の協力もなくてはできないものでした。ランチのケータリングも順調に。そして撮影終了後には編集の段階へと続きます。そして色の微調整、様々な方面とのコミュニケーション、翻訳、と長丁場です。といっても2月にミーティングして6月に撮影、7月に提出、10月に初演と、あっという間でした。

(下記写真全て:Minus Huynh)

これらの美しいセット写真が残っているのも、写真家のミヌスさん Minus Huynhが来て撮影の合間に撮ってくださったおかげです。

(写真:Minus Huynh)

いつかどこかで、小さな場所でも、映画祭で、試写会で、オンラインでなく、生の感想を聞かせてもらえる日が来ることを祈っています!

撮影中のエピソードをブログ続編で綴ってみたいと思います。

それでは、ぜひ映画をお楽しみください!!

ミュージアム・ナイト in アムステルダム

11月3日(土)は Museum N8 (Nacht – 夜)であった。

これは、アムステルダムの博物館(56館が参加)が夜7時から夜中の2時まで開き、様々な特別な催し物をやっている。毎年開かれ、一週間前にチケットは売り切れだったそう。

http://museumnacht.amsterdam

私はピアノラ博物館で、宣伝も兼ね、20分バージョンのマギーポディウム(9月13日のブログ参照)で2回参加させていただくことに。

 マギーポディウム(facebook いいね👍ボタンお願いします♪)

初演での反省点、隅々まで気が行き届かなかったオランダ語のセリフを初演よりはコンパクト、かつ正しくしようと、息子の前で練習してみると、直されるわ。。。9歳ともなると、オランダ語もきちんとしてきているようで、息子の話す程度の言葉遣いと文章の長さが、子供向けに話すのにはちょうど良い感じであった。

いつも日本語を教えようと、躍起になっている母の真剣さはのれんに腕押し。その代わりちゃんと学校で勉強しているオランダ語は、母の適当な文法で渡り歩いてきたものとは違うきちんとした響きがあり、頼もしく思う。

ミュージアムナイトのピアノラ博物館のところを事前チェックすると、LGBTQ 推薦マークが! レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア の略です。(はい、勉強になりました)

実は本番3日前に、「drag queen のグループの方たちとコラボするのどう思う?すごく美しくて、クラシックの歌曲を歌うの。」という電話があり、「はあ?グループ名?彼らのリンクを送ってくれますか?」などと無知な返事をしたところであった。

(もし私のようにこの言葉を知らない方のために。。。簡単に言うと男性で女装の方)

結局、持ち時間も短いし、コラボするのにリハーサルする時間もないので、自分のプログラムだけ集中するということに。

当日。なんと美しい女装集団が、楽器の調律を終えた頃、続々と到着。

香水がんがんの匂いの中、着替えとお化粧に忙しく、実は胸は毛むくじゃらだったり、ゴツゴツの足にストッキングで超高いハイヒール。。。デーモン閣下顔負けというか、仮想舞踏会の仮面というか、美しい厚化粧。10人近いグループでバックステージが賑わっていた。

「ハ、ハロー。すごい綺麗!」と挨拶してみる。

私のマギーポディウムと、ピアノラ博物館のカスパー・ヤンセンのでモンスレーションの合間に30分ほどのステージを夜中まで演奏していた。

公演を見に来た、自分の子供たちや甥っ子も彼らと写真撮ったり話したりして、、、アムステルダムのコアなところで育つと、こういう夜も5歳と9歳で経験することに。いいのかなあ?!どうなのかなあ?!

彼らのプログラムはまず最初ピアノラの伴奏で、マドンナのマテリアル・ガール合唱。そのあと、グループの一人が懐かしい、音大で必須であったイタリア歌曲集より数曲ソロで歌う。ピアニストの伴奏がとても音楽的で、前奏と後奏で癒される!

 

Vital Stahievitchさんのピアノソロもよかった。(ラフマニノフの前奏曲、スクリャビンのソナタなど)

この日に弾いたスタンリー・ホッホランド氏所有の18世紀のスクエアピアノは2度調律した。スクエアピアノのピンのところに手書きでa、b、c、、と音名があるがとても見にくく、年に2度も調律されるかどうかという状態なので弦が切れないようにすごく気を使ってそうっとピンを回してみる。

ここは味わいのある、アムステルダムらしい博物館で、ヨルダーン地区のお散歩ルートにオススメ!ピアノラミュージアム

 

 

 

ありがとうございました

つくばでのリサイタル、おかげさまで満席の温かいご声援をいただきました。

来てくださった皆様、お手伝いしてくださった方々に心より感謝いたします。

個人の所有とは驚きの、立派な建物。素晴らしい木目の柔らかな音響空間が、オリジナルのクリアーで華奢ででも豪華な音色を包んでくれました。

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リハーサルでは残響の長さに、焦るも、不思議なことに1時間も弾いていると耳が馴染んできます。本番ではお客様が入り、ちょうど良い包まれ加減の残響となりました。

今回のプログラムは

『ロンドンのピアノ音楽』’Music intended to reach the heart’ 〜心に届く音楽〜

と題し、珍しいロンドンでのピアノ音楽に焦点を絞りました。

聴きやすい、親しみやすい音楽がたくさんあります。スコットランドや各地の民謡、ダンス音楽もとても流行っていました。「メロディー」が親しみやすいこと、誰もが知る民族音楽を取り入れたもの、その土地と生活の中にある音楽を基盤として作曲された音楽がコンサートで演奏され、人々が大小のコンサートライフを楽しむ姿が、1800年前後のロンドンにありました。

地元での演奏会だったので、高校時代の恩師や同級生、親戚にもたくさん来てもらうことができ、ん十年前のご縁が続くことが何よりも嬉しかったです。本当に楽しみに遠方から来てくださった方、ブログも見てますよ、と声かけてくださった方、CDも買ってくださった方々、熱心に耳を傾けてくださり、本当にありがとうございました!

つくば山麓の懐かしいエネルギーをたくさん受け取りました。

広々とした関東平野の、まさにその中に立つ、素晴らしい空間でした。

今後とも精進してまいりたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。