Böhmのフォルテピアノ

前にも話題にでた、Gijs Wilderomさんの工房に、修復中のウィーン式フォルテピアノがある。

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最近、何度か弾かせてもらったが、とてもインスパイアされる楽器である。

数ヶ月前に弾かせてもらったときに今ひとつ鳴りに抵抗感があった。ハイスさんの中でもひっかかっていたらしく、ある部分を全部やりなおしたそうで、ずっとよくなった!楽器の修復の小さな作業は、すべての音にやりなおし、となると膨大な仕事である。でも、インスピレーションを信じてやりなおした決断はすばらしい。

なんて音楽的な楽器。というのは変な感想かもしれないが、思った音色が指先を通して、反応しやすく、しなやかにかえってくる。鳴りもとってもナチュラルになり、ウィーン式の軽さをもちながらも、スカスカしない「singing tone」のつまった音。

ハンマーシャンクに使用した洋梨の木は、オランダの果物畑といわれているBetuwe地方のものとのこと。

ポイントは、「蒸気処理をしていない木材」であることだそう。

18、19世紀のハンマーシャンクも梨の木はよく使われ、蒸気を通していないものであったらしい。そのほうが、強く、かつ、しなりがよく、強いタッチを受け止めて楽器を鳴らすのに、優秀らしい。そこで、蒸気を通してあると、微妙に木が柔らかく、楽器の鳴りにはマイナス点となる。

さて、この楽器はJoseph Böhm というウィーンのメーカーにほぼ間違いないと思われるが、ネームプレート(メーカーの銘柄の書いてあるボード)がない。

しかし、楽器の形、スタイル、ネームプレートのあるBöhmと比べることによってほぼそのようである。

もうひとつ証拠として、N.Y.のメトロポリタン博物館にあるBöhmとの共通点がある。

それは、楽器のメカニックを取り出したときに見ることができる、内蔵のベリーレイル(ピアノの内部、ハンマーのメカニックの背後にある支えの木材)に、鉛筆書きの「サイン」があった。

メトロポリタン博物館のBöhmとハイスさんの楽器の内部の同じところに同じ形のサインが!(下の写真のうち、上がメトロポリタン博物館の楽器。光っていて少し見にくいが、、確かにありました。)

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ハイスさんによると、「合格」とか「オーケー」みたいな意味ではないかとのことである。

製作家Böhmが自ら、鉛筆でサインしたものかもしれないと思うと、ゾクゾクする。