前回のブログでは、今年撮影した映画についてざっくりとお知らせいたしました。もっと撮影秘話に興味持ってくださる方、こちらも読んでみてください!
このタイトル『人生は夢』ですが、
これは映画の中でラストに使われているハイドンのドイツ語の歌曲 ‘Das Leben ist ein Traum’ の邦訳です。人生は泡のように儚く、いずれ消えてしまうもの。
解釈の難しい歌詞です。地上に浮遊するからっぽの泡。愛も戯れもいつか消えてしまう。名声を成しても最後に残るのは、墓標の名前のみー
この映画の中では、2箇所ドローンによる撮影がされています。
まさにこの曲の部分(約20’30)、そしてお話が終わってお城を引いていって撮影するところです。素人の私には出来上がりを見てすごい!の一言なのですが、よく見ていただくと、エドモンド君がちょうどこの歌詞を歌っています。(英語訳が選択できます)
「我々はこの世界に入り込み、漂う」 (We slip into the world and float)
そうです、歌手も橋の上で地面から離れ、水の上を漂うカメラは、子役の子供の目線、 夢の一部のようなシーンなのです。
この日、ちょうど風が吹いていました。風に揺れる木や草は、音楽とともに揺れているかのようで良いタイミングだったのですが、そうするとドローンカメラも、風でぐらついてしまうため、とても苦労していました。
この映画で使われた音楽は、演奏したフォルテピアノ(今回は形が四角のタイプで、特にスクエアピアノと呼ばれます)の時代と場所、1829年イギリス、をヒントに選曲されています。イギリスに行き来したメンデルスゾーン(フェリックスとファニー)とハイドン、このようなピアノを実際に弾いていた作曲家達です。
歌手のエドモンド君とキティちゃんの意見も伺いつつ、歌曲5曲、ピアノソロ3曲を演奏しました。
音楽プログラム
ピアノソロ
メンデルスゾーン作曲『無言歌』より Songs without Words
- OP. 19 – 2 『後悔』(Regrets)
- OP. 19 – 3 『狩りの歌』(Hunting Song)
- OP. 19 – 6 『ヴェネツィアのゴンドラの唄』(Venetian Gondellied)
歌曲
- メンデルスゾーン作曲 『ズライカ』Suleika
- ハイドン作曲 『共感』Sympathy
- メンデルスゾーン作曲 『ズライカとハーテム』Suleika und Hatem
- ハイドン作曲 『見て!あなたがそれを見るでしょう』Guarda qui che lo vedrai
- ハイドン作曲 『人生は夢だ』Das Leben ist ein Traum
(ピアノソロのタイトルは『ゴンドラの唄』以外は、後の人がつけた通称)
「音楽ビデオ」というのがメインの目的なので、監督のダーン・フレーは常に、’ Music first!’ ということを念頭にしていました。常に、ここどうする? → 熟考 → 結論 というプロセスの繰り返しです。子供がお城の中で見つからないように逃げて、隠れるシーンがあります。それを探そうとする、キティ。

例えばここで彼女の階段を歩く足音を入れるかどうか。足音が音楽にかぶさるとどうなるか、音量が小さければ気にならないか、どの音楽をここに使うか。このシーンの撮影中は、足音を別のマイクで追ったわけではなく、カメラの中で入ってくる音のみです。足音を使用する場合は、もう一度録音するか、作るか、そういう音源を探すか。
ストーリーが流れるよう、音楽が流れるよう、常に熟考していました。
音楽と撮影環境という材料のみからインスピレーションを得てストーリーを展開し、フィクション映画を作りあげたのです。
イギリス、ドイツのロマンティックな歌詞に溢れる言葉の数々は、西風に託した恋人への想いや水のきらめき、戯れ、など自然描写も豊かです。イタリア語のデュエットではキューピッドが二人を結びつけるシンボルです。それらを映像化に試みる、とっても斬新的な映画なのではないかと思います。
‘ Nature or Culture ‘ 自然 か文化か、とよくフレー氏は言っています。
自然、とは元々そこにあったもの。
文化、とは後から人が造り上げたもの。
結果的には自然との一体感ある作品になっているのではないでしょうか。
この女の子役で出演しているのは、実は娘です。


馬の玩具で遊ぶのが大好きで、それはいつもの自然体のままです。それでも映画となると初めての経験で、大きなカメラが回る中、様々な要求に応え、よく頑張りました。主人は以前の映画 ‘ Aangenomen’ (adopted: 2012) で息子を子役として起用したので、今回は平等に娘にもチャンスを与えたというのもありますが、子供の目線、というものからインスピレーションをたくさん得ているのは確かです。
「この映画の全てを理解する必要はない」と監督のフレー氏は話します。
なぜ?と思う箇所もあるかもしれません。
なぜカンフー!?
と思われたかもしれません!
このカンフーをするヒーローがお姫様を助けてくれるかもしれない、、
エドモンド君はカンフーでたくさんの賞を取っており、プロ並みの腕だそう。歌えてカンフーができて、演技力もある歌手。オペラもたくさん勉強したいそう。将来の活躍を期待しています!
長くなってしまいました!
ここで、本当に秘話だと思うのが、1年前には何もなかったのです。
コロナ禍になり、自宅でオンライン授業を受ける子どもたちや授業をする夫、その世話係になってしまった自分に落ち込みました。そこで、5分間のライブコンサートを思いつきました。その会場がこのお城でした。そのライブを見てくれた方は、何万もいません!100人ぐらいの視聴者の中に、香港のKarenがいてくれて、その映像と雰囲気が素敵、ということで今回の依頼をいただきました。そこからどんどんアイデアが発展していき、カレンも音楽祭で今年5本の映画をプロデュースしました。自分のできることを一つ一つ一生懸命やることが、大切なんだ、と改めて感じた出来事です。
美しい自然、お城、音楽、ロマンティックな恋、空に昇っていく目線。
全ては一つの夢。
香港古楽音楽祭のKaren Yeung、この夢の作品を作らせてくれて、ありがとう!
最後に、スタッフの紹介を。
2日間の撮影中に来てくれた写真家のMinus Huynh氏は、撮影現場の写真を撮ったり、私達のポートレートを撮りに来てくださいました。
現場の写真を綺麗に撮ってくださったおかげで、このブログも華やかになりました。ポートレートは、映画の最後の部分に使われていますがレンブラントの光と影を出すような奥行きのある写真を撮る方です。https://www.minus-huynh.com/index.html
完璧な光の差し具合を調整するのに、準備が入念でした。
編集の Elmer Leupen氏は素晴らしい経験と才能で、撮影したフィルム材料を使いこなし、美しい仕上がりへと導いてくれた映像の魔術師です!www.elmerleupen.nl
数々の素晴らしい録音を残されている録音技師のFrans de Rond氏、バッハ協会管弦楽団専属を始め、各種コンサートホール、コンクール等で幅広く活躍される調律師のEduard Bos氏、経験豊富なカメラマンで、以前スェーリンクコレクションでもお世話になったDeen van der Zaken氏、映画監督であり、カメラマンでもあるAndré Kloer氏、ピアノを提供してくださったGeelvinck Fortepiano Collection、ユトレヒト州Loenersloot お城のボランティアのチーム、美味しいランチを作ってくれた Aly’s Biologische catering、
皆さんにお世話になりました。今回は私はピアニストの役をもらった女優でした!
たくさんの方に見ていただけたら嬉しいです。