グラーフの御披露目間近

出来たてのフォルテピアノ(グラーフ)、最初に試させていただく機会でした。

Jan van der Sangen ヤン・ファン・デア・サンゲンさんの5年越しの作品。なんと生っぽい音。調理されていない生肉(?)と比べるのも変ですが、材料の木材が形となり、職人の手によって楽器となり、鍵盤となり、弦が張られ、音楽が奏でられる。弾き手とともに楽器が精製され、成長し、職人がさらに調整する。そのまだ生肉が焼けていないレアな段階に入る感じ。味付けも飾り付けもこれからです。

良いものを作ろうと目指していくこの過程に携わらせてもらっているんだ、と楽器を弾く姿勢に気が引き締まります。数年後に鳴る楽器を見据えて、良いエネルギーをたくさん受けて成長していってほしい。あと2週間では楽器にしてはまだまだ出来たてですが、お披露目ではこの楽器の持つ大きな潜在性を感じていただけるのではと思います。

まだ外塗装もされていない天然木の感触が音色にも現れます。
ハンマーの打弦部分にある、新品の鹿皮がこれからどんどん凝縮されて音色も日々変わっていくことでしょう。

6月19日のお披露目コンサートでは、ヤンさんが以前に制作したベームとともに2台フォルテピアノという超贅沢なコンサートを、素晴らしいピアニスト、アルテム・ベロギュロフ Artem Belogurov さんと演奏させていただきます。とっても楽しみです!

音色はこちらのインスタグラムにアップしました!https://www.instagram.com/kaoru.iwamura.1/

マギーポディウム in Mozarthof

「かおるのマギーポディウム」(家族、子供向けフォルテピアノコンサート)をモーツァルトホーフという学校で、モーツァルトの誕生日の1月27日に演奏してきました!

モーツァルトホーフはスペシャル教育(speciale onderwijs)が行われる、日本でいう特別支援学校に当たります。ここに通うすべての子供達が、ダウン症や、何らかの障害を持ち、学びが困難な子供たちが一般学校よりもゆっくりと、それぞれの子供の能力に合わせた教育を受けています。

このコンサートはお話やシアター的要素もあり、ただ聴いてもらうコンサートと違い、一緒に参加して楽しい時間を過ごしてもらうための企画です。

私の主戦力、シュタインモデルのフォルテピアノを車に積んで、いざ目的地へと向かいます。

この体育館、さあみてください。

舞台の先生、音楽の先生のご協力で黒いカーテンで外光を遮り、舞台照明とカラフルな照明で、雰囲気がガラッと変身しました!

さて、いよいよ第一グループが入場してきました。

中に入った途端に「わー!」「ワオ!」

外見にはどんな障害を持っているかわからない子も多かったです。音に敏感だということで、遮音用のヘッドフォンをつけている子がどのグループにもいました。

最初は緊張感がありましたが、始まってくると皆熱心に聴き入ってくれました。子供たちの反応の素晴らしいこと!!!

ダウン症の子供たちは音楽にとても敏感なようですね。

マギーポディウムは45分のプログラムが標準で内容盛りだくさんなのですが、事前に学校の音楽と舞台の先生と打ち合わせ、子供たちのレベルと年齢に合わせて200名ほどの全校児童を7グループに分けてくださいました。

プログラムも20分、30分、45分と3種類用意し、その場でさらに柔軟に対応できるよう工夫を凝らして準備しました。

コンサートの中で、「よかったらここは音楽に合わせて踊ってもいいよ!」というと、本当に「えー、いいの?」と言ってすぐに踊り始める子がたくさんいました。今までの経験ではなかなかないことでした。

これまでやってきたマギーポディウムで「踊ってもいいよ!」というとシーン、、と恥ずかしがる場合が多いのです。

でもここでは本当に楽しく踊りだすのです。こちらも嬉しくなり、思いっきり踊ってね!!と内心思いながら伴奏に気持ちが切り替わります。

7回の公演の中で、たくさんのことが印象に残っています。

その中で例えば、ベートーヴェンの「月光」の1楽章をダンパー+モデラートペダル(音色が変わる)をオンにして演奏するのですが、曲が終わると通常拍手があったり、言葉を発したり、体を動かしたりの反応がありました。

あるグループの時、その中にはダウン症の子供が多かったのですが、最後の音が消えていくまで、私もずーっと聞き続け、普段以上に長い最後の音、消えた後の余韻を聴き続けました。もう音は終わっている。。。それなのになんと長いこと誰も何も、物音を発しないのです。大抵は雰囲気で自分が音を止める瞬間を決めます。でもこの回では、演奏中からただならぬ深い静けさを感じ、終わってからも長い沈黙。

そうなんです、信じがたいくらい皆が音色を聴き入ってくれて、感じ入り、内面に反応しているのでしょうか。誰もそれを止めないし、自由に反芻しているのです。いうなれば、彼らの感受性にはコントロールというバリアが少ないのです。感じたら、そのまま、感じるまま。まるで無重力でどこまでも続く時間のようでした。

それぞれの子供が違う表現方法を持ち、彼らの外側にいる私たちに伝達されます。

私はこの時の、感じ続けてくれている沈黙の瞬間を一生忘れないことでしょう。涙が出そうなくらい胸がいっぱいになりましたが、次の動作へと自分が移りました。

マギーポディウムの中で、モーツァルトからのお手紙を読んでもらうときがあります。あらかじめ先生と打ち合わせて、このグループは「読む」ことが難しい、とかこのクラスは年齢15から20歳ぐらいまでで読める子も何人かいる、と確認してからスタートしました。子供が読まない時は、先生が読み、そしてほとんどの回で、専門の手話の先生が来て、お手紙の内容を同時に示してくださいました。本当に先生方の熱心なご協力には感謝です。

ある回の時、手を上げてお手紙を読みたいという子がおり、その子はフォルテピアノを触ってみたい、という時も手を上げて熱心だったので、読んでもらうことにしました。でも読むのは難しかったらしく、一つ一つ単語を読むのに、とても時間をかけて、手紙を読み終わるのに数分かかりました。みんなじっと静かに待ちました。その我慢強さにまた感銘を受けました。

読み終わった時、クラスの子供達が「よくやった!」と拍手で讃えました。

常に互いにリスペクトしあい、頑張っているクラスメートの努力をサポートしていました。その子も皆の前で緊張しながらも、頑張ったことを誇りに思ったことでしょう。

手紙を読んでくれた子供の年齢は後で聞くと、14歳でした。体は自分の8歳の娘と変わらないくらいの身長で、読むスピードは5歳ぐらいの年齢というところでしょうか。でもこのように障害がない子供の標準と比較することは無意味なことです。彼女の努力と好奇心、鋭い感受性が居心地の良いこの空間で保護され、安全にゆっくりと成長しているのです。

魂の触れ合いのようなものを、この学校空間ではとても感じました。

ストレートに感受性がぶつかり合い、「楽しい」という気持ちをお互いに交換しました。

印象に残った出来事が多すぎて、圧倒され、消化するのに時間がかかりました。

またの機会に書きたいと思います!

‘ Thin Air’

このタイトルから皆さんは何を思い浮かべますか?『薄い空気』?これは、2020年にカリオペ• ツパキ Calliope Tsoupakiさんというギリシア出身の女性作曲家が作曲した作品の名前です。コロナ禍中に、‘Festivals for compassion’ ( 共感するフェスティバル)と題し、Wonderfeel festival ワンダーフィールフェスティバルというオランダの野外音楽祭が、世界にまたがるオンラインの音楽リレーを企画しました。

https://festivalsforcompassion.com/info/

もっと元をたどると、オランダ人芸術家、Rini Hurkmansさんの「共感の旗」という作品からインスピレーションを得て、音楽の形にしていったのが先のフェスティバルだそうです。

Flag of Compassison by Rini Hurkmans

この旗を掲げて航行する船があったり、飾っているギャラリーがあったりします。共感する、意思表示ですね。

このアイデアを聞いた時に、素晴らしい!と思い、オンラインで世界の様々な場所で、この ‘Thin Air’という同じ作品を 思いを寄せて演奏する姿を「共感するフェスティバル」のサイトで見た時、自分も是非参加したい!と思いました。

そして、11月に演奏させていただいたエラート・フェスティバルで希望を伝えたところ、録画が実現し、現在先のサイトのタイムラインに自分も参加させていただいています。

ユーチューブではこちら。

’Thin Air ‘ by Calliope Tsoupaki

‘ Thin Air’ = 薄い空気

とすると、なんだかコロナの病で呼吸困難になって、酸素が足りないことも関係あるのかな?!と思えたりもして。邦訳、これというのが思いつかないまま、英語にしています。

でもこの言葉を探すと、なんとシェークスピアの詩の一節にある言葉でもありました。この11月のフェスティバルのプログラムでは、ベートーヴェンの『テンペスト』も一緒に演奏したので、シェークスピアからインスピレーションを得たと言われているこの曲とつながりが!?!

偶然だと思うのですが、びっくりしました。

Prospero’s speech. (from ‘Tempest’(written 1610/1611) William Shakespeare )

           Our revels now are ended: These our actors—,
           As I foretold you—, were all spirits and
           Are melted into air, into thin air;
           And, like the baseless fabric of this vision,
           The cloud-capp’d towers, the gorgeous palaces,
           The solemn temples, the great globe itself,
           Yea, all which it inherit, shall dissolve
           And, like this insubstantial pageant faded,
           Leave not a rack behind: we are such stuff
           As dreams are made on, and our little life
           Is rounded with a sleep. — The Tempest, Act 4, Scene 1

ちょっと難しすぎて(汗)、うまく説明できませんが、「精霊たちが空気に、薄い空気に溶けていく」と述べています。

『テンペスト』も、海の上のいかだに乗ったプロスペロと娘のミランダ、島に漂着して、生き延びて、そして魔法で嵐を起こしてリベンジ。。。 イメージ広がるお話です。

今回のこの ‘ Thin Air’ では自分なりの様々なイメージを膨らませて演奏しました。

オリエンタルなメロディーが聞こえてくるところは、世界中に空気を伝って東から西方へ音楽が広がっていく場面、(コロナも空気を介して伝わる 汗)エオリアンハープに触れる風、

精霊たちの天上の叫び、悲しみとともに吹く、墓場の優しい風。

最後、出だしより半音上で曲が終わるのが、何よりも温かく、そしてポジティブな前途を感じさせてくれる、と思いました。

生と死を身近に感じ、共感と、人との連帯、つながりをとても意識したコロナ時代。

この作品は声楽、ソロ楽器、どんな楽器編成でも演奏でき、誰でもダウンロードできます。

私が使ったのは、ギター、ハープ、ピアノ用楽譜。フォルテピアノは少しギターやハープに近い音色を持つと思います。是非機会があったら、演奏してみてくださいね。

こちら→ https://festivalsforcompassion.com/download/

ミュージアム・ナイト in アムステルダム

11月3日(土)は Museum N8 (Nacht – 夜)であった。

これは、アムステルダムの博物館(56館が参加)が夜7時から夜中の2時まで開き、様々な特別な催し物をやっている。毎年開かれ、一週間前にチケットは売り切れだったそう。

http://museumnacht.amsterdam

私はピアノラ博物館で、宣伝も兼ね、20分バージョンのマギーポディウム(9月13日のブログ参照)で2回参加させていただくことに。

 マギーポディウム(facebook いいね👍ボタンお願いします♪)

初演での反省点、隅々まで気が行き届かなかったオランダ語のセリフを初演よりはコンパクト、かつ正しくしようと、息子の前で練習してみると、直されるわ。。。9歳ともなると、オランダ語もきちんとしてきているようで、息子の話す程度の言葉遣いと文章の長さが、子供向けに話すのにはちょうど良い感じであった。

いつも日本語を教えようと、躍起になっている母の真剣さはのれんに腕押し。その代わりちゃんと学校で勉強しているオランダ語は、母の適当な文法で渡り歩いてきたものとは違うきちんとした響きがあり、頼もしく思う。

ミュージアムナイトのピアノラ博物館のところを事前チェックすると、LGBTQ 推薦マークが! レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア の略です。(はい、勉強になりました)

実は本番3日前に、「drag queen のグループの方たちとコラボするのどう思う?すごく美しくて、クラシックの歌曲を歌うの。」という電話があり、「はあ?グループ名?彼らのリンクを送ってくれますか?」などと無知な返事をしたところであった。

(もし私のようにこの言葉を知らない方のために。。。簡単に言うと男性で女装の方)

結局、持ち時間も短いし、コラボするのにリハーサルする時間もないので、自分のプログラムだけ集中するということに。

当日。なんと美しい女装集団が、楽器の調律を終えた頃、続々と到着。

香水がんがんの匂いの中、着替えとお化粧に忙しく、実は胸は毛むくじゃらだったり、ゴツゴツの足にストッキングで超高いハイヒール。。。デーモン閣下顔負けというか、仮想舞踏会の仮面というか、美しい厚化粧。10人近いグループでバックステージが賑わっていた。

「ハ、ハロー。すごい綺麗!」と挨拶してみる。

私のマギーポディウムと、ピアノラ博物館のカスパー・ヤンセンのでモンスレーションの合間に30分ほどのステージを夜中まで演奏していた。

公演を見に来た、自分の子供たちや甥っ子も彼らと写真撮ったり話したりして、、、アムステルダムのコアなところで育つと、こういう夜も5歳と9歳で経験することに。いいのかなあ?!どうなのかなあ?!

彼らのプログラムはまず最初ピアノラの伴奏で、マドンナのマテリアル・ガール合唱。そのあと、グループの一人が懐かしい、音大で必須であったイタリア歌曲集より数曲ソロで歌う。ピアニストの伴奏がとても音楽的で、前奏と後奏で癒される!

 

Vital Stahievitchさんのピアノソロもよかった。(ラフマニノフの前奏曲、スクリャビンのソナタなど)

この日に弾いたスタンリー・ホッホランド氏所有の18世紀のスクエアピアノは2度調律した。スクエアピアノのピンのところに手書きでa、b、c、、と音名があるがとても見にくく、年に2度も調律されるかどうかという状態なので弦が切れないようにすごく気を使ってそうっとピンを回してみる。

ここは味わいのある、アムステルダムらしい博物館で、ヨルダーン地区のお散歩ルートにオススメ!ピアノラミュージアム

 

 

 

「冬の旅」への旅

シューベルト歌曲集「冬の旅」。

11月19日のシューベルトの220年の命日に自分の「冬の旅」デビューを果たした。

「冬の旅」の旅の第一歩を踏み出すことができたのも、いろいろなご縁とお声をかけてくださった方のお陰である。共演のGuy さんより、以前この本をプレゼントにいただいた。

 

普段英語の本を読み切る能力は???なのに、がんばってこれは読もうと張り切った。言葉も調べて読んでいるつもりだが、やはり自然科学や歴史、絵画、様々な分野の教養、知識、専門用語が多く、そう簡単に進まない。内容の濃さと興味で、読みたい気持ちはあるのだが、英語力がついていかない。。(汗)

 

そしてこの8月に東京のヤマハで日本語訳を発見!

今年の2月に日本で初版が出たばかりで、1年半眺めた英語版に見切りをつけ、即購入!

 

そしてなんとかコンサートの前までに読み、今後も繰り返し目を通そうと思う本である。

リート伴奏で大事なのはやはり、ドイツ語の意味の把握、音楽と言葉の抑揚の一体感を感じることなので、本を読むことが目的ではないのだが、でもボストリッジの演奏家としての経験と観察力から書かれる冬の旅の分析は、とても興味深く、彼の教養の幅広さと鋭さ、繊細さにはもうほれっぱなし。彼の演奏も本当に心に浸みいる。エモーションがダイレクトに伝わってきて、長年愛聴していたフィシャー=ディースカウとはまた違う新鮮な良さがある。

オランダのスクエアピアノ、1830年頃の楽器で、親密さと「スピーク」できる感覚がたまらなく、お客様にもとても喜んでいただくことができた。

リート伴奏は楽しい!24曲の構成、フォルテピアノでの演奏、テンポ構成、伴奏法、詩の意味、様々な観点から興味の尽きない作品である。Guyさんとの共演も続けていきたいが、一生のうちには両手指くらいのたくさんの歌手の方と「冬の旅」を勉強して、様々な声域でも機会があったら演奏してみたいなあ、と密かな目標を持っている。

 

お城でのコンサート

先週の昇天祭月曜日には、ユトレヒト近郊のルーナースロートというこじんまりしたお城で、年に一度のオープンデーに毎時間コンサート、というイベントで演奏させていただく機会をいただいた。

歴史的なお城の中での歴史的なテーブルピアノの演奏という、セッティングで雰囲気からすでに素敵。

 

お城は13世紀に建てられ、1985年に手放されるまで、そのご家族のお宅として使われていた。最後に住まわれた男爵夫人は離婚後、長年一人暮らしだったそう。一人で住むにはすごく大きい!!逸話によると、オイルヒーターの暖房がまだ完備でない頃、夫人は家の中で部屋から部屋へと自転車を乗り回していたそうだ。

オランダっぽい。。

 

15分のミニコンサートということもあり、子供連れも誘いやすく、来やすく早くも予約で一杯。

約60席の天井高めの壁画のあるお部屋に、絵のように治まったブロードウッドのテーブルピアノ(1829年製) 。

・・・と偶然の「ディズニー白雪姫」色スカート。(笑)

 

1時間おきに計6回弾き、360人ほどのお客様にブロードウッドの現役な音色を聞いていただくことができた。プログラムはシューベルトの即興曲から一曲は毎回、(3つのプログラムを用意)他にベートーヴェンのバガテルや、エリーゼのために、楽興の時3番など親しみやすい曲に。

 

子供達、おじいちゃん、おばあちゃん、お友達、生徒さん一家、知り合いの方達も来てくださり、喜んでいただいて、幸せな気持ちになった。幅広い層の方にフォルテピアノの音色を聞いていただけたことが何よりもの喜び。15分で3−5曲というのは、初めて見る、聴く音色には十分な時間である。

普段のコンサートについて考えさせられた。

クラシックって、本当に馴染みやすいのだろうか。敷居の高いプログラム、になっていないだろうか。場合によってプログラムの内容はとても大事。

今回のような場所で、フォルテピアノをたくさんの幅広い層の方に聞いていただけた、ということが自分の幸せ感につながっているのでは、と思う。もっとたくさんの方に素敵なヒストリカルピアノの音色を聞いてもらいたい。。。そういう使命感が達成されたのかもしれない。

 

 

お天気も最高で、広いお庭ではお城見学の後、皆が外で遊んだりお散歩を楽しめる。

 

 

使われていた食器も展示してあったが、オランダの1790年頃のこの地方のもので一枚数十万円の価値とか。ナチュラルな染料の色で、かわいらしい。

 

 

そうそう、驚いたのは、このお城の上の一角には子供連れ家族が住んでいる。それは、ふつーの人で、ユトレヒト市の現在のこのお城の所有である団体が、賃貸している。。。

この壁画の中の隠し扉からもそこに通じているそう。

お城入り口に面した二つの元馬小屋のうちの一つも、改装されて普通の住宅として住まわれている。それで収入になるし、ということ。この方達の住宅環境をまもるためにも、お城は日曜日は公開していない。現在は週に3回ほど、半日から一日だけ公開しているそうだ。

 

おみやげにお城の最後のお住まいだった男爵夫人のものという、100年以上前のコーヒーカップをいただいた。

 

SOUNDS

フォルテピアノの五重奏団。

思えば結成は2013年。

半年のブランクのあと、この5月15日にはなんと一日で二つのコンサート。

一日2回のシューベルト「ます」はかなりヘビーだった。。。

ひとつめは、ドイツ国境近くのある街のシアターで、ライトアップもかっこよくこんな感じ。

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そう知名度があるとも思えない私たちのアンサンブルのチケットを買ってくれる方はいるのだろうか、、、と心配しながらホールのマネージャーに「チケット予約ありましたか?」と尋ねると「いい質問だ、ちょっと聞いてくるよ」とどこかへ。そしてピースサインをして戻ってくるので、2枚ってことかな、、、と思うと200人!

宣伝の効果か、ありがたいことにたくさんのお客様に私たちのオリジナル楽器での「ます」を聞いていただくことができた。

5人の女性グループとして自分たちの音楽を探しながら、いつくかのコンサートを共にしてきた。

弦の4人は古楽オケなどで世界をかけまわって活躍している、経験豊富なメンバーだが、でも五重奏のコンサートはそうそうあるわけでもなく、残念ながらマネージャーもなし。

やっとラッキーなことに入って来たこの2回公演は、大成功で5人の結束もびゅーんと強くなったような一日だった。

前半のプログラムは他に、Albrechtsberger の弦楽四重奏。「ます」編成の4人の弦楽奏者でできる作品。アルブレヒツベルガーはベートーヴェンの作曲の先生として知られている。バロックから古典にかかる時代を象徴するような要素たっぷりの、4楽章の美しい曲で、最初の緩徐楽章のあと、2楽章目はフーガ、3楽章はメヌエット、最後は軽快なスケルツァンド。

そしてモーツァルトのトルコ行進曲。今回ははじめて、テーマが戻るところに装飾や、デコレーション(ロバート・レヴィン氏の言葉)実験的にたくさんいれてみる。

モーツァルト的スタイルの中でする装飾のこと、もっと研究を重ねてみたい。

前半の最後は2014年にSOUNDS のために、オランダの若手作曲家、Hugo Bouma氏が作曲してくれた ‘andere vissen’(他の魚達)。この曲は「ます」とコンビで演奏会に取り上げられることを想定して作られており、8つの魚に関連した内容からなる。さらに、5つのペダルを持つウィーン式ピアノのために作曲されているので、ファゴット、打楽器、モデラート、ウナ・コルダ、ダンパーとすべてのペダルが効果的に大活躍する、とても面白い作品。

今回の「ます」のためにフォルテピアノを提供してくれたのは、Theo Kobald氏。

非常に細かいところまで完璧に作られていると感じるような、美しい楽器である。(2014年作、ウィーンのFritz 1813 のレプリカ)

 

Kobald 1813 whole

オリジナルではいろいろ不備があっても、そのオリジナルの特性でカバーでき、人々に感嘆される。レプリカの良さは、製作者とコミュニケーションできること。そしてレギュレーションの完璧さ、瑞々しい音色、こちらの感じることや要求にすぐに対応してくれようとする、テオさんの完璧主義(!?)な姿勢と準備には頭が下がる。やはり生きている同世代の製作者と共に仕事をすることには、大きな意味があると感じる。

休憩中には興味を持ったお客様が数十人集まり、製作者テオさんからお話を聞いていた。

休憩中にも丁寧に調律をしてくれたにも関わらず、このかっこいい照明は相当温度が高く、休憩後に行くと、鍵盤もいすもあったまっている程。(笑)調律を保つのが難しい会場ではあった。

 

さて、二つ目の会場は Kasteel Heeswijk

ここでは、ブロードウッドの1840年製の楽器で、5つペダル用のBouma氏の作品が演奏できなかったので、シューベルトのヴァイオリンとのソナチネ1番のデュオと、メンデルスゾーンの無言歌より、ソロを代替にいれる。

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2回目の「ます」はずいぶん弾きこなれてきたところもでてきて、疲れを忘れての熱演であった。

今回はコンバスもチェロも、そして5人が一緒に乗れるワゴン車をレンタルして移動。

 

五重奏のリハーサル、コンサートを通して思ったことは、人数が多くなることによって、「透明感」を保つことの難しさ。5人の中で思いっきりバックグラウンドにまわったり、一転してコンチェルトのようにソリストになるべき役割になったりの差が大きい。弱音もあまり弱くては聞こえなくなってしまうので、全体にスケールの大きさが必要なのかもしれない。5人それぞれがソロとしての自覚を持つこと。そう、もっと大きな音楽をしたい、という刺激になった!

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次のSOUNDSのコンサートは7月10日、アムステルダム。

シューベルト「ます」& ボウマ「他の魚達」など。

 

 

モーツァルトプログラム

自分にしては実はオールモーツァルト、というプログラムを演奏したソロリサイタルは初めてであった。
今年の1月に2カ所でこのプログラムを演奏した。

モーツァルトの幼少時代から晩年の作品までのなかからいくつかを選んで、「モーツァルトー人生の旅路」と題して彼の音楽とその頃の出来事をお話したりしながらすすめた。

2014年に自筆の断片が発見された、有名なイ長調のソナタK.331(トルコ行進曲つき」)もプログラムに。

自分が子どもの頃から親しんでいる作品で、それもモーツァルトは死後200年以上経っているものがなぜ今更、音が違うことがあるのだろうか?
こんなセンセーショナルな出来事はそうそうない。

ブダペストの国立図書館で、無記名の自筆譜の山を丁寧に調べていたある音楽学者が、そのうちのひとつがモーツァルトのよく知られた音楽であることに気づく。

ソナタの中の一部の発見であったので、トルコ行進曲の楽章には音の変更はなかったが、1、2楽章においては数カ所、その新しい版に従った。

ヘンレー モーツァルトK331

モーツァルトのK.331 メヌエット楽章 最新のヘンレー版より

 

こちらから自筆譜をダウンロードできる。(なんという時代!)この貴重な版をすぐにシェアできるようにしてくれて感謝。

http://mozart.oszk.hu/index_en.html

 

今回のプログラムは

Kv.397, 540, 355, 310, 25, 331

メッペル市の会場はアムステルダム周辺の自分のお客様が来てくれるにはちょっと遠いので集客を心配していたが、モーツァルトのお陰か、このソナタの話題のお陰か、なんと満席に。そして思いがけず嬉しい新聞批評(4つ☆)をいただいた。(訳さなきゃ!!!)

Recensie Kaoru MC 25 jan 2016

 

さらに、オーガナイザーのサポートのお陰でこんな映像を作成してくださった。話べたで使えるところが少なくて。。。さらに英語もひどくて、演奏会前で余裕もなくて、と言い訳ばかりだけれどでも綺麗に撮影してくださった、Salomon Meij 氏、 企画してくださったAdriaan Meij氏にはとても感謝している。

 

 

久しぶりに自分のシュタインのピアノを登場させることができた。

その前のお手入れが大変だったが、長い目でみて何度もレギュレーションしたり、新たなプロブレムや自分の楽器のことを詳しく知ることができるのはとても大事な機会。

折れた。。

と、一週間前にやぼなミスでこんなこともあったが。。。

ご近所のGijs Wilderom氏はじめ、何かあったら駆けつけられるフォルテピアノ技術者が多々いる贅沢なオランダ環境。

以前、自分で専用ののりをつけて、糸で巻いて治すやり方を習ったので過去に2、3度やったが、今回はGijs氏のアドバイスで糸はなしでもしっかり固まる方法を教えてもらった。

練習時間か、楽器の手入れかどっちに時間を使うか。。。練習時間がとても限られているのでほぼ、半々くらいな気もした。。

全ての音の弦への「接近」具合をチェックするだけで、2、3時間かかる。(FFからf3)

それも一度で終わらない。様々な要素がかみ合っているので、チェックポイントがたくさんある。

キーが動き始めるまでの「あそび」の部分の深さや、ハンマーがきちんとまっすぐ弦を打っているかどうか、鍵盤の高さは全てまっすぐに並んでいるかどうか、、、

それからこの部分

グラフィーと

 

エスケープメントがスムーズに動くように、黒鉛がつけてあって、でも塗らなくてもいい、という意見もあるのだ。サンドペーパー派、木片で木部分をこする、などなど、自分でもいろいろ試してみる。

そして、調律もコンサート前には回数を増やす。

でもこうして楽器に手をかけると、相棒への愛着感も増す。

さらに舞台の上では音楽に集中したいから、出来る限り問題を少なくしておきたい。

そうして、一緒に共にした時間があって、一緒に会場に到着して、共に演奏会に出演するときの感慨は大きい。自分が所有できる、最初で最後の5オクターブのピアノだと思うから、いつまでも元気でいてほしい。

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「ワーテルローの戦い」プログラム

2015年は、ナポレオンがワーテルローの戦いで負けてから200年の年であった。その戦いにちなんだ音楽を探してみると、思いの外たくさんあり、当時の聴衆が娯楽として音楽を楽しんだ様子が思い浮かぶ。

オランダの作曲家ウィルムス(Johann Wilhelm Wilms) は『ワーテルローの戦いーピアノのためのある歴史の音楽的絵画』という作品はまさにタイトルそのまま、戦争開始の様子から戦い、その後のお祭りの音楽までが、ナレーションの言葉が添えられて描かれている。

7月には日本でも池袋の明日館にて 「東日本大震災復興支援コンサート 」として 梅岡楽器さんとのコラボレーションによって、このプログラムのソロ版を演奏させてもらうことができた。

オランダでは、俳優で歌手であるGuy Sonnen氏とのデュオ版や、ピアノトリオ ベルフォンティスとGuyさんとの4人でのバージョンなど、数回公演した。

各地で大好評をいただき、たくさんのお客様に楽しんでもらうことができた。エンターテイメント的要素の強いプログラムだった。日本でのソロ版はGuyさんのナポレオン姿をご披露できなくて残念だったが、あるお城でのコンサートの写真はこちら。(ピアノはブロードウッド1840年製)

27-09-2015 Belfontis Trio heeswijk

 

guy&kaoru in jagthuis 2015

こちらはHet Jagthuisというアムステルダムより郊外にある街の昔農家で,牛舎小屋を改造して作った演奏会場、の楽屋にて。

Guyさんはかつて、日本の「オランダ村」で今も(?)上映されるための映画「将軍からの贈り物」に主演するため来日したことがあり、日本大好きな俳優さん。

 

kasteel heeswijkKasteel Heeswijk

 

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ生誕300年

今年はバッハの息子達の中でも最も才能があったと思われるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの生誕300年にあたる。

6月に小さな会場でそれにちなんだリサイタルを開いた。

タイトルは’ Bach & Bach’ .

バッハが好き、という音楽愛好家は多いがほとんどがヨハン・セバスチァン・バッハの父のほうを指すだろう。やはりカール・フィリップだけではお客さんが来てくれそうにもない。だから父と息子の音楽を比べて聴ける企画にした。

フォルテピアノで主にカール・フィリップ、17世紀イギリスモデルのスピネットで父バッハを演奏。

プログラムはカール・フィリップの「識者と愛好家のための曲集」よりロンドやソナタ2曲、そして「フォリアの主題による変奏曲」、「幻想曲ーカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの心情」。

父バッハはフランス組曲の第5番よりアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、インベンションとシンフォニアよりニ短調、ニ長調、ヘ長調、ヘ短調を並べて演奏した。

カール・フィリップはオリジナルのZahlerというチェコのフォルテピアノ(5オクターブ半)が繊細な心情を表すのに頼もしい私の相棒となってくれた。強弱の差が出せるフォルテピアノとチェンバロのひとまわりヴォリュームの小さいようなスピネットと比べる場合、どんな競争になるかと思いきや、どちらの良さも返って引き立ったようで、どちらもよかったという感想をたくさんいただいた。

音楽としては、カール・フィリップの方が良い作曲家、聴いていて面白いね、という意見も。。。

どちらにも同じタイトルの作品を選ぼうと最初は考えがあったのだが、それが面白いことにほとんどないことがわかった。まさに父の音楽の趣味に反抗していたのだろうか?!

カール・フィリップには組曲、「プレリュード&フーガ」の組み合わせもほとんどないし、カール・フィリップに多い「ロンド」、「ソナタ」は父バッハにほとんどない。(ヴァイオリンのソナタは有名)父バッハは「ファンタジー」と名のつくものは意外と少なく、オルガン曲に少しあるのと、有名な「半音階的ファンタジーとフーガ」などである。スピネットでその曲を試しに練習していたが、今ひとつ迫力に欠ける。

スピネットは豊かな音色が出るが、やはりボディーが小さいため、2段鍵盤のチェンバロにはかなわない。私は常々、それぞれの楽器には「サイズ」があると思っている。

サイズの合わない洋服を着るとその人の良さが出ないのと同じく、作品のサイズと楽器のサイズもマッチしないと、しっくりこない。今回「半音階的ファンタジーとフーガ」をスピネットで演奏したら、スピネットって物足りない楽器だね、この曲って今ひとつな曲? という楽器にも曲にも残念な感想が出かねないのだ。

インヴェンションとシンフォニア、聴きやすく声部の少ないフランス組曲はとても良く楽器が鳴ってくれたと思っている。曲がシンプルで音が少なくても、作曲家の素晴らしさはそのままである。ヘ短調のシンフォニアのなんと深みのある内容。

 

この日のコンサートの落ちは、ちょうどサッカーのワールドカップでオランダが試合する日で、ちょうどコンサートの時間と同じ!控え室の窓から見えるアムステルダムの通りのカフェはオレンジ色でいっぱいで皆、大きな画面を見ている。

サッカーだから来ないというお客様はもちろんいた。(生徒さんの家族一家も:))

来てくれた音楽好きのお客様達には楽しんでいただけたようで、良いコンサートとなった。会場のピアノラ博物館のバーでは、コンサートの終了後、壁にかかった古い大きなオルゴールを当時のコインを入れてまわしてくれた。とても豊かな響きをワインとともに最後まで残っていたお客様数人と堪能した。